子宮卵管造影・卵管検査と治療
検査の対象
- 女性不妊症の原因のうち、卵管因子は約3割を占めます。よって卵管疎通性(卵管が通っていること)の確認は不妊症に対する基本検査とされています。
- 卵管疎通性の検査には、子宮卵管造影(HSG)を行うことが一般的ですが、ヨード造影剤を使用できない場合は、卵管通水(簡便な検査)や超音波子宮卵管撮影検査(フェムビューという注射筒を使用する)が行われます。
但し、通水やフェムビュー検査は主観の入る検査であり、正確性においてはHSGには劣ります。他に卵管通気検査が以前には行われていました。
検査で分かること
- HSGは、レントゲン撮影で子宮左右の卵管角より伸びる糸状の卵管像と卵管末端からの造影剤の拡散を確認することを目的とします。その場合、ほぼ確実に卵管の疎通性があると判断できます。
- 卵管疎通性の障害とは、下記に大別されます。
- 近位閉塞:卵管が子宮内腔に接続する卵管口における閉塞(左卵管口での閉塞)
- 遠位閉塞:卵管の末端、卵管采の癒着による閉塞(骨盤への造影剤拡散がない・卵管水腫)
- 卵管自体の癒着:子宮内膜症・骨盤腹膜炎による内臓や骨盤と炎症性の癒着
(油性造影剤を使ってのHSG実施翌日に再撮影した場合)
- 近位閉塞:卵管が子宮内腔に接続する卵管口における閉塞(左卵管口での閉塞)
- 不妊症および習慣流産が有る場合、子宮内腔には、子宮内膜ポリープ、子宮粘膜下筋腫、子宮内腔癒着、および子宮中隔等の子宮奇形を伴うことがあります。
卵管疎通性を優先して検査を行う場合、レントゲン撮影では子宮内の病変を確認することが困難になりがちです。別途、超音波下の子宮内腔造影で子宮内病変の有無を確認する場合があります。
- HSGと同時に、子宮頚管の異常(狭すぎる、または広すぎる等)、子宮内膜症を疑う所見(子宮頚管の狭窄、子宮の偏位等)、骨盤の異常、を認めることがあります。
- 卵管疎通性が認められない場合、実はその半数でその卵管は通っていると考えられています。多くは一時的な卵管の刺激によるれん縮(狭まること)が原因です。
- 卵管の片方、もしくは両方に通過障害が認められる場合、当院では別の時期にHSGの再検査を行うか、子宮鏡下に卵管の選択的通水検査を行います。
後者の場合、子宮鏡で確認した卵管口にカテーテルを挿入することにより、卵管の疎通性が約8−9割で確認されます。施設によっては、卵管鏡下卵管形成術(FT)という内視鏡治療を行う場合があります。
子宮鏡下に行う選択的卵管通水・開口術の写真(右卵管閉塞への実施)
子宮卵管造影(HSG)の実際
当院におけるHSGの実施について説明します。
子宮卵管造影の合併症
次の合併症が知られています
- 検査後に骨盤内感染が3%に認めたと報告されています。当院では検査の直前に予防的抗生物質の内服を行います。検査後、発熱・腹痛・風邪様の症状が続く場合、医療施設への報告が必要です。
- 月経が完全に終了していない、卵管閉塞により造影剤の注入により子宮内の圧力が高くなる、にて造影剤が子宮の血管内に流入することがあります。
造影剤による塞栓やアレルギーが生じる場合があり、検査をただちに中止・終了する必要があります。
- HSGにおける造影剤の使用によるアレルギーの頻度は1%以下と報告されています。
よくある質問
Q1: 検査に進む時期とは?
A1: 卵管因子は不妊症の主たる原因であり、その検査は基本的検査と考えられています。子宮内膜症、骨盤腹膜炎、骨盤手術や異所性妊娠(子宮外妊娠)の既往がある方にはより重要な検査となります。
一方、排卵因子、男性因子の検査に比してやや侵襲的であり、まずこれらの検査後に行うのも妥当だと筆者は考えます。
第1子を自然妊娠で出産し第2子希望の場合は、検査をしばらく保留する場合もあります。体外受精に進む方には卵管疎通性の確認は必須ではありませんが、子宮内腔の病変有無は確認が望ましいと考えられます。
卵管水腫があると受精卵の着床に影響を及ぼすことがあり、その有無をHSGで確認することが望ましい場合があります。
Q2: 検査による痛みについて
A2: HSGにおける不快感と痛みは、子宮と卵管内に薬液を入れるカテーテルを子宮に装着する際、および薬液で子宮の内圧が上がる際に起こりやすくなります。
殆どは月経痛位の痛みであり、検査に熟達した医師なら患者の症状を確認しながら行うのが一般的です。痛みを感じる場合でも、短時間のみで、検査の当日は通常の生活が可能です。
筆者の意見:お知り合いやSNS等で卵管検査が苦痛を伴う検査であると事前から不安にかられておられる方が多いと察します。検査を提案すると、直ぐに「痛い検査ですか?」と聞かれることが多いのは何故でしょう? おそらく辛い経験をされた方は、貴方を含む周囲に話して共感を求めるのでしょう。
いずれの卵管検査もある程度の侵襲があり、全く不快感や痛みが無いとは申し上げられません。
但し、痛みは心の中にあり、それは自分しか感じられないものです。他人における痛みの感じ方は、自分の感じ方とは異なります。
同じ検査でも、検査の進め方以外に心の在り方次第で、その感じ方は違うと思います。あらかじめ苦痛な検査と先入観を持ってしまうと、その結果を引き寄せてしまいます。
卵管の検査は、他の検査を差し置いて受けるべきでもないので、どうしてもご不安な場合は、段階を踏んで納得と心の準備ができてからお受けいただいても良いと存じます。
タイミング治療をご希望の方で、卵管検査に至らずとも妊娠を達成される方も多くいらっしゃいます。
当院では、できるだけ快適に検査をお受けいただけるように致しますので、ご安心ください。
Q3: 検査で妊娠し易くなるか?
A4: 卵管疎通性検査を受けると妊娠し易くなるという噂が流布しています。但しそれを積極的に支持する医学的な一貫した根拠は殆どありません(2019年にHSG後に2年以内の自然妊娠が約1.5倍に増加したという研究があります)。
通常、医師が妊娠を促進する目的で卵管の検査を勧めることはありません。
Q4: 卵管に問題がある場合の検査や治療は?
A4: 卵管に問題が有る場合、①後日、再検査、②子宮鏡下卵管通水検査(通常、麻酔を行います)・卵管鏡検査、③全身麻酔・腹腔鏡下に卵管疎通性を直接確認する(診断的腹腔鏡か他の婦人科手術と同時に行い、疎通性と癒着の有無を確認)、によって再び検査に進む場合があります。
卵管の近位閉塞(卵管口付近の閉塞)の場合、子宮鏡下卵管形成・通水術、もしくはFT(卵管鏡下卵管形成術)によって疎通性が回復する場合があります。
遠位閉塞(卵管采での閉塞、卵管水腫を生じる)へは腹腔鏡か開腹手術による卵管形成手術が可能ですが、その予後はあまり良好ではありません。卵管水腫への手術予後は、元々の卵管障害の程度によって左右されます。
体外受精が一般的になった現在、卵管水腫によって胚移植が不成功な場合、手術により卵管の子宮からの分断、もしくは卵管切除が勧められる場合があります。
もし入院が必要な卵管手術が必要になった場合は、連携する手術が可能な連携施設へ紹介を行います。
(文責 生殖医療専門医 朝倉寛之)