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PCOS・多毛症

目次

1.多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症状と原因
2.PCOSの診断
3.PCOSの治療
4.多毛症の診断と治療


【PCOSの症状と原因】

多嚢胞卵巣症候群(PCOS)とは、月経不順、無月経、にきびの増加、多毛、を主な症状とする原因不明の状態を指します。排卵障害によって月経不順があるなら、妊娠が起こりにくい場合が見受けられますが、必ず妊娠するのが困難とは限りません。

症状は10歳代の後半、思春期頃から始まるという説があります。若い女性の5-8%はPCOSであると考えられ、症状が軽度の場合が多く、多くの方がそれに気づいておられません。肥満があると症状の悪化に関係します。


PCOSの患者で肥満や高脂血症、高血糖になる人も増加しているため、成人病、メタボリック症候群になりやすい体質と言われています。排卵が起こりにくければ、妊娠しづらい可能性も高くなります。

無月経の状態が長期間つづくと、子宮内膜の変化(子宮内膜増殖症等)、希に悪性化(子宮体がん)を生じる場合があり、定期的な産婦人科医による診察が勧められます。

PCOSは根本的な原因が不明で、症状は長期的になりがちです。治療は対症療法が主体ですが、月経不順は卵巣機能が低下し始める40歳頃から徐々に緩和する場合を多く見受けます。

PCOSの原因は、排卵に関わるホルモンバランスに変化あると考えられています。脳内の下垂体からLH(黄体形成ホルモン)がFSH(卵胞刺激ホルモン)よりも過剰に分泌されることが多く見受けられます。

PCOS女性では血糖を調節するインスリンホルモンが細胞で効きにくい事(インスリン抵抗性)が多く、増加したLHとインスリンは共に卵巣に働いて卵胞の発育を妨げて排卵障害を起こします。

また、これらのホルモンは卵巣よりアンドロゲン(男性ホルモン)を多く分泌させて多毛などの男性化症状を起こします。


【PCOSの診断】

日本産科婦人科学会の診断基準では、①排卵障害が認められる、②高LH(黄体形成ホルモン)血症または高アンドロゲン(男性ホルモン)血症のいずれかがある、③卵巣に多嚢胞が見られる、という3つの条件にすべて当てはまり、他のホルモンの病気(高プロラクチン血症、甲状腺機能異常等)がないことが確認されると、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断されます。欧米では別の診断基準が用いられています。

しかしながら、PCOSの症状は多様で、①~③のすべてが揃っている典型的な症例は実はそれほど多くありません。月経は数ヶ月間の無月経から、周期的に排卵と月経がある方まで、その症状は多様で一様ではなく、国によって診断基準が異なり、”群盲象を評する“と言われるように、PCOSの診断が困難な場合があります。

PCOSを診断するには、前記の診断基準を満たしているか、月経周期についての問診、血液検査、にきびと多毛の部位・程度を確かめる全身の診察、骨盤超音波(通常は経膣超音波)で検査を行います。

性交未経験の方には、尿で膀胱を充満させての経腹超音波や、直腸からの超音波を行う場合があります。超音波検査では卵巣の表面に小さな卵胞が沢山並ぶ変化があるかどうかを判定します。 

肥満がある場合、高脂血症や高血糖(糖尿病)の有無を検査で確認します。

現在ではPCOSの診断基準には含まれていませんが、PCOS女性では血液検査で抗ミューラー管ホルモン(AMH)や、空腹時および糖負荷後のインスリン値が高い場合があることが特徴的です。

 


【PCOSの治療】

PCOS女性は、月経不順が軽度(2−3ヶ月以内おきに月経がある)、にきびや多毛症が過剰でなく、現在積極的に妊娠しようとしておられなければ、定期的な婦人科検診のみが対応が可能です。

月経不順による生活上の支障あり、避妊が必要な場合は、低容量ピル/LEPの内服が有効です。ピルを数ヶ月内服することにより、男性ホルモンの値が下がり、男性ホルモンの作用を中和する蛋白が増えることにより、にきび・多毛症が軽減することも期待できます。

多毛症には、ピルと脱毛治療の併用がより効果的と考えられています。詳細は、本ページの「多毛症」の欄をご検討ください。

不妊症と伴うPCOS、または早期に妊娠を希望するPCOS女性には、排卵を整える排卵促進剤(通常は内服薬、効果が不十分な場合は注射薬)が処方されることが一般的です。

肥満があり、妊娠中の合併症(高血圧、糖尿病)の発生する可能性が高いと予想される場合には、排卵誘発に先立って、食生活習慣の見直し、積極的な運動による減量をお勧めします。肥満を解消することで、投薬なしに排卵が順調に起こりやすくなり、自然妊娠の可能性が高まることが海外の医学研究で証明されています。

PCOS女性の特徴として、排卵を誘発する内服薬が効きにくい場合がやや多く見受けられます。一方、注射薬の使い方によっては卵巣に必要以上の卵胞が急に増え、発育する傾向も見受けられます。よって、一般産婦人科における内服の排卵誘発で不調が続く場合には、不妊症専門医か生殖医療専門医による治療をお勧めします。

減量と通院による排卵誘発の効果が乏しい場合、施設によっては入院による腹腔鏡下の卵巣多孔術(卵巣の中心を電気メスもしくはレーザーで焼灼する治療)で自然排卵しやすくなる効果を期待する事や、体外受精へステップアップすることが勧められる場合があります。

PCOSは排卵促進・誘発で多数の卵胞が育つ傾向が通常より高く、多胎妊娠(双子やそれ以上の子供の妊娠)のリスク因子でもあります。

一般不妊治療で多数の卵胞が育つ場合、体外受精・顕微授精で受精卵を1つ子宮に移植することにより、多胎妊娠のリスクを抑制することが勧められる場合があります。

下記、当院におけるPCOSへの不妊治療の基本方針を示します。

PCOSへの当院の治療方針

  • 自然に近い排卵ができる診療を重視する。
  • できるだけ内服薬で排卵が起こるようにし、ホルモン注射の使用は最小限にする。
  • インスリン抵抗性等の排卵を妨げるホルモン環境を整えて、より少量の排卵誘発薬で安全な排卵を実現する。
  • ゴナドトロピン注射で排卵誘発を行う場合、自己注射による利便性と過剰刺激を避ける安全性を重視する。

 

参考資料:多嚢胞性卵巣症候群(日本内分泌学会)

 


多毛症の診断と治療

【多毛症の症状】
① 女性の体毛が異常に多い状態を指し、肉眼的にも精神的にも悩むこと。
② 生理不順、月経不順や生理の間隔が長くなるなどの傾向が多いようです。
③ 頭部の頭髪の脱毛(頭頂部から前頭部)を生ずる事もある。
④ 活動型のニキビもできやすい傾向にあるようです。

【多毛症の原因】
① 体質的な多毛症 (特発性多毛症):皮膚に男性ホルモンが作用しやすい
② 副腎の異常 (先天性副腎過形成、クッシング症候群、副腎腫瘍など)
③ 卵巣の異常 (多嚢胞性卵巣、卵巣腫瘍など)
④ 脳下垂体の異常 (プロラクチン過剰、成長ホルモン過剰)
⑤ 薬剤の副作用によるもの (ステロイド、抗けいれん薬など)
⑥ 甲状腺疾患

実際はこれらのうち、体質的な多毛症がほとんどです。

【多毛症の検査】

 多毛症の原因を調べるために、全身の発毛と男性化徴候の確認、卵巣の形状を超音波で調べること、ホルモンの検査を行います。重症の場合や月経の異常を伴う場合には、②、③、④の可能性が考えられます。

【多毛症の治療 】
多毛に対しては一般的に皮膚の除毛とレーザー等による減毛が行われますが、さらに内服薬(ピル、抗アンドロゲン剤)による薬物療法を追加すると効果が増大します。内服による効果が現れるまで3−6ヶ月はかかり、効果維持には数回治療を繰り返す場合があります。

【多毛症の治療種類と原理】

  • 脱毛処理:レーザー、光、電気で毛根を破壊する。
  • 低容量ピル:1日1回内服、卵巣からの男性ホルモン分泌を抑える
  • 抗男性ホルモン剤(内服薬):皮膚での男性ホルモンの作用を阻害する
  • GnRHアゴニスト注射:卵巣の活動を抑制する(4週毎、最長6ヶ月まで)

参考: エフロルニチン(eflornithine)クリーム 

顔面多毛症へのクリーム製剤で、他の脱毛・除毛の補助目的で使われます。成分は発毛を抑制します。個人輸入の必要あり。副作用へ厚労省の補償は受けられません。

(文責:生殖医療専門医 朝倉寛之)

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