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男性不妊症検査

不妊症に悩むカップルの50%程度には男性側の原因もあるとされており、男性不妊の有無を調べる事は、不妊症原因を調べる上で基本的な検査と考えられています。

男性不妊症の検査

男性側の検査は、1)基本となる精液検査と、2)泌尿器科的な検査、3)血液検査に分けられます。精液検査は、受診されたほとんどの方が受ける一般的な検査です。男性不妊症外来の受診はこの段階では必要がありません。 1)の基本的精液検査で問題がある場合に、男性不妊症専門医の外来で、2)と3)を診察・エコー検査・血液検査などにより行います。

  • 一般精液検査

当院では精液の量やpH、精液中の精子濃度、精子の運動率および不動化率、精子以外の細胞数、を基本的な精液検査としています。加えて初回では、精子を特殊染色して約200個の精子を顕微鏡で観察して求める正常形態率(Kruger法による)、およびクラミジア・淋菌検査を行います。

下記は、当院で発行する精液検査結果の報告書です。

WHO(国際保健機構)により、精液検査の標準値が定められており、妊活開始より1年間以内に自然妊娠したカップルの男性における精液検査結果の内、最も少ないもの5%以上を正常と定めています。

本年改訂されたWHO精液検査正常基準については、こちらのブログ記事へ

精子の正常形態率は精子の卵子への受精能力を示す指標と考えられ、人工授精体外受精を行う際の事前確認検査と、当院では考えております。

(クルーガー、ハロ検査報告書)

図にあるように、精液の濃度や運動率が低値となるほど、時間の経過とともに妊娠されてゆくカップルの増加が緩やかであり、最終的に妊娠される可能性が低くなります。極端に少ない数値でない限り、精液検査から妊娠が出来る、出来ないを知る事は難しいですが、正常値を下回ると、妊娠までの時間がよりかかることをご理解ください。

精子の濃度や運動率は、変動が大きいことが知られています。図にあるように、同じ男性の2週間おきに2年間の連続検査で、大きな差が生じます。1度の精液検査で異常値であっても、時間をおいて再検査をすると、正常範囲となることが多々あります。よって、最初の検査で正常範囲でない場合は、時間をおいてから、再度の基本精液検査をすることをお勧めします。

精液は、なるべく2-3日の禁欲期間(射精しない期間)の後に、用手法(マスターベーション)で専用の容器に全量を採取します。本来は、医院の専用の採精室で採取いただくのが理想的ですが、あらかじめお渡しする容器にご自宅等で採取される場合、なるべく温度変化を避けて1−2時間以内に医院にご持参いただくことでも検査は可能です。その場合に、もし精子の運動率が少ない場合には、院内で採取による採取と再検査をお勧めする場合があります。

  • 泌尿器学的検査


一般般精液検査で異常が認められた場合、泌尿器科専門医による男性不妊症外来への受診をお勧めする場合があります。受診では、不妊症に関連する病気の既往の有無、勃起や射精などの現在の性生活の状況を確認するとともに、場合によっては、精巣(こう丸)などの外陰部の診察、精巣サイズの測定、男性不妊症の原因として最も頻度の高い精索静脈瘤の有無などを触診および超音波で検査を行います。

精索静脈瘤は、精液所見の悪化、精子のDNA損傷(体外受精などの不成功や流産の原因になる可能性あり)、陰嚢痛や違和感、男性ホルモンの低下などの原因になりますが、適切な治療(手術)が行われれば改善の可能性が高いです。精索静脈瘤が認められる場合、精子のDNA損傷を増加させる場合があり、その程度を調べるために精子DNA分断化率検査の実施をお勧めする場合があります。

  • 血液検査

医師が必要と考える場合、血液中の男性ホルモン(テストステロン)や性腺刺激ホルモン(LH、FSH)、場合によってはプロラクチンや甲状腺機能などを調べます。睾丸の精子を形成する機能および他の内分泌疾患の有無を評価する為に必要な検査です。勃起障害や射精障害がある場合にも必要になる場合があります。

精子数が極端に少ないまたは無精子症の場合には、血液検査により染色体検査や遺伝子検査(AZF検査;Y染色体微小欠失))をお勧めする場合があります。染色体の軽微な変化や遺伝子異常が、精子形成障害の原因になっていることがあるからです。また、精巣内精子採取術を実施する前に、精子を回収できる可能性を確認する上で検査の実施をお勧めする場合があります。

その他特殊な検査
 精子の機能を調べる検査、精嚢や射精管の形態を調べるMRI、精巣での精子形成の状態を詳しく調べる精巣生険、勃起能力を調べる検査などが、病状によって行われます。

 

男性不妊症の原因について

女性不妊症と同様に、男性不妊症の原因には様々なものがあります。 それらは、機能不全(勃起不全、射精障害など)、精路通過障害(パイプカット後など)、造精機能障害(突発性、精索静脈瘤等)、副性器障害、に大別されます。

最も多いのは突発性の造精機能障害で、全体の4割を占めます。原因不明で睾丸内での精子の形成に障害が起こる状態です。次いで精索静脈瘤による造成障害が約3割を占めます。 時に精液所見の悪化が時に、睾丸の腫瘍の最初の症状であることがあります。

最近は、勃起障害に悩む男性も珍しくなく、高血圧や心臓病等の循環器疾患、糖尿病など、内臓疾患が関係する場合があります。問診の上、適切な抗ED剤の処方を行います。膣内での射精が困難な状態は、刺激が強すぎる極端な自慰方法を習慣とする男性によく見られるようになりました。その場合、TENGA等の用具を用いてトレーニングを行うか、タイミング法を試みつつ、女性パートナーへの人工授精を併用することをお勧めする場合があります。

当院における男性不妊症の治療方針は、まず正しい精液検査を行い、産婦人科と泌尿器科専門医が連携して、男性不妊の原因を特定することから始まります。 その後、男性へのより的確かつ効果的な治療の方法を検討しながら、女性の不妊原因も考慮に入れつつ、より望ましい治療の方法を提案させていただきます。

男性不妊症には、早期に体外受精・顕微授精を勧める風潮にあります。しかし、当院が男性の診療を重視する理由として、

  • 精液所見の改善により、タイミング法や人工授精などの一般的な不妊症治療が行いやすく、かつ妊娠できる可能性が増す。
  • やはり高度な治療(顕微授精)が必要となっても、精子数や精子品質の改善により、その実施の困難さが緩和されることにより、より効果的に実施できるようになる。

からです。

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FAQ. よくある質問

Q1: 適切な禁欲期間とは?

A1:  精液検査前の禁欲期間が長すぎると、品質不良の精子が混入し、精子運動率および精子形態の不良が記録されてしまいます。適切な禁欲期間は2〜7日ですが、それよりも短い場合は気になさらないで結構です。少なくとも、頻回に射精をすることで、精子の品質が低下するという事はなさそうです。

Q2: 精子の採取は自宅よりも医院での採取が望ましい?

A2:  WHOの工程による正確な精液検査には、精液採取より30分してからの検査開始が望ましいとされます。当院では専用の採精室を設けております。但し、男性パートナーのご都合や、よりプライベートな環境での採取も重要で、院外で採取しての検体お持ち込みも可能です。精子運動率以外には大きな影響はないと考えられます。但し、冬期など1−2時間以上の低温下では精子の運動率が低下する傾向があります。医院に容器をお持ち込みになる場合には、人肌程度の保温を推奨いたします。

Q3: 良くない精液検査結果があれば、どんな薬を飲めばよいのか?

A3: 精液検査結果が不良と判断される場合、その原因は多数あり、それぞれに異なる治療を要します。精液検査の結果だけから、治療を決める事は困難です。又、どんな場合の男性不妊症に有効なお薬は存在しません。初回検査が理想的でなければ、まずはしばらく時間を置いて再検査をお受けいただき、その上で血液検査や診察などにより対処を検討いただければ幸いです。

Q4:   精子の状態を良くする日常生活の習慣とは?

妊活中の男性パートナーは、男性不妊の有無に関わらず、禁煙と減酒、睾丸温度を上げない工夫、睡眠不足を避け規則正しい生活を送る、事をお勧めします。医院で処方されている一部の男性型脱毛症薬(プロペシア、アボルブ等)は男性ホルモンを抑制する働きが強く、精子数や精液量の減少、ED、性欲減退といった副作用が報告されています。前述の通り、禁欲期間が長過ぎることにより、精液所見が不良となることがあります。

(文責:生殖医療専門医 朝倉寛之)

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